数字は嘘をつかない。よく聞く言葉だ。
半分正しい。数字そのものは、確かに嘘をつかない。でも、数字を選ぶ人間は嘘をつく。数字を並べる順番も、切り取る期間も、比較する対象も——全部人間が決める。そこに意図が入る。意図が入れば、数字は嘘をつく。
財務に長く携わってきた立場から、今日はその話を書く。AIとは少し距離を置いた回だ。でも、最後にはAIに戻ってくる。
「良い数字」を作る技術
経営の現場では、数字を「作る」ことができる。不正という意味ではない。同じ事実を、どの数字で表現するかを選ぶ、という意味だ。
売上が前年比95%だったとする。「前年比5%減」と言うか、「過去5年平均比で3%増」と言うか。どちらも嘘ではない。でも受け取る側の印象はまるで違う。
原価率が上がったとする。「原価率が2ポイント悪化した」と言うか、「粗利額は前年を上回っている」と言うか。これも両方、事実だ。
経営会議や投資家向け説明では、こういう「数字の選択」が常に行われている。それ自体が悪いとは言わない。文脈によっては、適切な切り取り方がある。でも、受け取る側がそのことを知らないまま数字を信じると、判断を誤る。
管理会計が教えてくれること
財務諸表——損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書——は、外部への報告のために作られる。ルールがあり、形式がある。
管理会計は違う。社内の意思決定のために、自分たちで設計する数字だ。どの事業がどれだけ稼いでいるか。どのコストが本当に必要か。どこに投資すれば効果が出るか。これを自分たちの言葉で把握するための道具が、管理会計だ。
私が管理会計を重視するのは、これが「数字を選ぶ側」に立つための道具だからだ。外部から出てくる数字を受け取るだけでなく、自分たちの実態を自分たちの目で見る。その習慣がある会社と、ない会社では、意思決定の質がまるで違う。
売上が増えているのに手元のお金が減っている。なぜか。管理会計ができていれば、すぐわかる。できていなければ、気づいたときには手遅れになっていることがある。
AIが数字を出すとき
ここでAIの話に戻る。
AIは数字を出すのが得意だ。グラフを作り、集計し、比較し、トレンドを示す。見た目が整っていて、それらしい。だからこそ、怖い。
AIが出した数字には、「誰がどういう意図でこの数字を選んだか」という文脈がない。AIは聞かれたことに答える。でも「その数字を聞くべきかどうか」は判断しない。間違った問いを立てれば、間違った方向に整った数字が返ってくる。
第4回の市場調査の話で書いた「AIにはあるかないかがわからない」と同じ構造だ。AIは出せる数字を出す。でも「本当はこっちの数字を見るべきだ」とは言わない。その判断は、人間がするしかない。
数字と向き合う、ということ
数字が読める、というのはどういうことか。私はこう思っている。数字の裏にある「誰がどういう意図でこれを出したか」を想像できること、だ。
数字を計算できることではない。表を読めることでもない。その数字がどういう文脈で生まれたかを問える、ということだ。
AIが経営の現場に入ってくればくるほど、この能力が重要になる。AIが出してくる数字を鵜呑みにしない。なぜその数字なのかを問い返す。その一手間が、判断の質を守る。
次回は、私がなぜAIにここまでハマったのかを書く。バックオフィスの人間がサービスを作り始めた経緯を、正直に話そうと思っている。
株式会社スポルアップ CFO 加藤
AI・経営・数字まわりのことを、思ったことをそのまま書いています。
