10万枚と、5000万回。いま「ゴールド」は何を数えているのか

ゴールドディスク、という言葉がある。ある年代から上の人間には、この響きに重みがある。私も、CDを買っていた世代だ。好きなバンドのアルバムがゴールドを取った、というニュースに、なぜか自分のことのように誇らしくなったのを覚えている。ゴールドとは、10万枚。それだけ売れた、という勲章だった。

だが最近、ふと分からなくなった。いま、音楽の大半はサブスクで聴かれている。私自身、CDを最後に買ったのがいつだったか思い出せない。それなのに、相変わらず「ゴールド認定」のニュースは流れてくる。ほとんど誰もCDを買っていないのに、何をもってゴールドなのか。調べてみたら、「売れる」の物差しが、静かに、しかし根本から置き換わっていた。

目次

「ゴールド」が数えているもの

日本レコード協会のゴールドディスク認定は、もともと出荷枚数で決まる。ゴールドが10万枚、プラチナが25万枚、100万枚でミリオン。CDやレコードが何枚、店に出荷されたか。これがずっと「売れた」の意味だった。

そこに、2020年、新しい物差しが加わった。ストリーミング認定だ。再生回数で認定する。3000万回でシルバー、5000万回でゴールド、1億回でプラチナ、5億回でダイヤモンド。同じ「ゴールド」でも、かたや10万枚の出荷、かたや5000万回の再生。数えているものが、まったく違う。

同じ「ゴールド」でも、数えるものが違う 出荷枚数で数える(従来) ゴールド = 10万枚 プラチナ = 25万枚 ミリオン = 100万枚 再生回数で数える(2020年〜) ゴールド = 5,000万回 プラチナ = 1億回 ダイヤモンド = 5億回 出典:日本レコード協会 ゴールドディスク認定/ストリーミング認定基準(2020年4月開始)

出荷枚数、ダウンロード数、再生回数——いまや「ゴールド」には、単位の違う複数の物差しが同居している。どれも「ヒットの勲章」だが、測っているものは別物だ。同じ金色の盾を並べても、中身は違う競技の記録なのだ。

CDは縮み、ストリーミングが伸びる

数字で見ると、転換ははっきりしている。2024年、日本の有料音楽配信の売上は1,233億円。3年連続で過去最高を更新し、11年連続のプラス成長だ。そのうちストリーミングが1,132億円で、配信の91.8%を占める。配信で稼ぐ音楽は、もうほとんどがストリーミングだ。

2024年 日本の音楽の売上(億円) 音楽ソフト生産 2,052(前年比93%) 有料音楽配信 1,233(前年比106%) └ ストリーミング 1,132(配信の91.8%) 出典:日本レコード協会「日本のレコード産業2025年版」(2024年実績)

一方、CDなどの音楽ソフトの生産額は2024年で2,052億円、前年比93%と、じわじわ縮んでいる。面白いのは、金額でいえば、日本ではまだフィジカル(CD等)のほうが配信より大きいことだ。世界を見渡すと、日本はCDがしぶとく残っている珍しい市場でもある。握手券やイベント参加券がついたCD、手元に置いておきたいというコレクター心——日本のCDには、音を聴くこと以外の価値がくっついている。だから、聴くだけならサブスクで足りる時代になっても、CDは簡単には消えない。だが方向は明確だ。縮むフィジカルと、伸びるストリーミング。稼ぎ方の重心は、確実に移っている。

数えるものを変えると、目指すものが変わる

ここからが本題だ。「売れる」の物差しが、枚数から再生回数に移ると、作られる音楽そのものが変わる。再生回数で測るなら、大事なのは「最後まで丁寧に聴かせる」ことより、「何度も再生される」こと、そして「途中で飛ばされない」ことだ。実際、ストリーミング時代の曲は、イントロが短くなり、サビが前に来たと言われる。最初の数秒でつかめなければ、スキップされてしまうからだ。物差しが、曲の形にまで手を伸ばしている。

そして、その再生を大きく左右するのが、プレイリストとレコメンドだ。次に何が流れるかを決めるのは、いまや人間のDJではなく、AIのアルゴリズムであることが多い。数える対象が「再生回数」になった瞬間、その再生を差配するAIの土俵の上に、音楽の一部が乗った。何を数えるかは、何を目指すかを、静かに決めてしまう。これは音楽に限った話ではない。会社の評価指標でも、同じことが起きる。測る数字を決めた時点で、人はその数字が上がる方向に動き出す。売上だけを評価すれば、値引きしてでも数字を作る者が現れる。件数だけを見れば、中身の薄い案件が量産される。物差しは、良くも悪くも、人を動かす。だから、何を数えるかを決めるのは、じつは「どんな行動をとってほしいか」を決めることなのだ。

断っておくが、私はこれを良い悪いで裁くつもりはない。ストリーミングもレコメンドも使うし、便利だと思っている。否定する気はまったくない。ただ、便利な物差しに何もかもを合わせにいくと、その物差しに映らないものが、こぼれ落ちる。5000万回再生されなくても、誰かの一年を支える曲はある。数字は「どれだけ聴かれたか」を測れても、「良いかどうか」までは測れない。そこはまだ、聴く側の耳が引き受けている領域だ。

金色は、何を数えた結果か

ゴールドディスクは、いまも輝いている。ただ、その金色が何を数えた結果なのかは、10万枚だった頃とは違う。物差しが変わったのだ。悪いことではない。時代が変われば、勲章の測り方も変わる。大事なのは、その勲章が何を数えているのかを、こちらが分かった上で眺めることだ。

これからも金曜は、音楽やエンタメの数字から、AIとテクノロジーが「売れる」の形をどう変えてきたかを、ひとつずつ読んでいくつもりだ。次にゴールド認定のニュースを見かけたら、一度だけ思い出してほしい。それは、何枚売れたのか、それとも、何回再生されたのか、と。数字の正体を知っているだけで、同じニュースが、少し違って見えてくる。

アイキャッチ画像はAI生成です。

次の成長に向けて、いま整えるべきことを。

AI、EC、マーケティング、採用、数値管理。
構想だけで終わらせず、実行できる体制へ。

まずは課題を整理してみるところから、スポルアップが実務目線で伴走します。

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この記事を書いた人

法務・財務・内部統制・情報セキュリティの実務を経て、AI時代の企業支援へ。バックオフィスの現場で見てきたことを、そのまま書いています。

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