AI臭さは、五つの癖でできている

人の書いた文章を読んで、「これはAIだな」と分かってしまう瞬間が、この一年で急に増えた。確証はない。だが、数行読むと鼻が反応する。私自身、文章の下書きにAIを使う。だから余計に、その匂いには敏感になった。自分の下書きにも、同じ匂いが立つからだ。あれは何の匂いなのか。しばらく読み手として観察を続けて、匂いの正体は、だいたい五つの癖に分解できると思うようになった。

癖、と書いたのには理由がある。AIの文章が下手なのではない。むしろ整っている。整いすぎた文章が、決まった場所で、決まった形に崩れる。その崩れ方が毎回同じだから、読み手はそれを「癖」として学習してしまう。今日はその五つを、順に並べてみたい。

目次

対になりたがり、三つに並べたがる

ひとつ目は、対句だ。「AではなくBだ」「Aだけでなく、Bも」。言いたいことを、必ず何かと対にして置く。ふたつ目は、その親戚で、三つ並べる癖だ。「速く、正確に、そして安全に」。理由も例も、三つで揃える。どちらも、修辞としては正しい。人間の名文にも対句はあるし、三点並列は古典的な技法だ。問題は頻度だ。一段落に一度、対か三つ組が出てくると、読み手はリズムを先読みできるようになる。次の文の形が分かる文章は、読まれなくなる。

断言の手前で、一歩引く

三つ目は、留保だ。「〜と言えるでしょう」「〜かもしれません」「〜と考えられます」。言い切る直前で、必ず一歩引く。AIは間違いを恐れるように作られているから、言い切りより留保を選びやすい。だが読み手の側から見ると、留保だらけの文章は、書き手が責任を持ちたがっていないように映る。何も断言しない文章は、何も言っていないのと同じだと、読者は直感で知っている。

段落の頭で、いま言ったことを言い直す

四つ目は、接続の癖だ。段落の冒頭で、直前の段落をまとめ直してから次へ進む。「このように」「言い換えれば」と前置きして、同じ内容をもう一度、少し抽象的に繰り返す。講義の語り口としては親切だが、文章では冗長になる。読者はすでに前の段落を読んでいる。もう一度まとめてもらう必要はない。この癖が出ると、文章の密度が下がり、「長いわりに中身が薄い」という印象だけが残る。

結論を、丸く閉じる

五つ目は、締めだ。AIの文章は、最後に必ず両方に配慮する。「メリットもあればデメリットもある。大切なのはバランスだ」。誰も傷つけず、誰の反論も受けない、丸い結論。読み手はこれを、結論の不在として嗅ぎ取る。人間が本気で何かを書くとき、結論は普通、どちらかに傾いている。傾かない結論は、書き手がいないことの証拠に見える。

五つ並べてみると、共通点が見える。どれも「間違わないための癖」だ。対句と三つ組は構成で安全を買い、留保は断言のリスクを避け、言い直しは伝わらない不安を埋め、丸い結論は反論を封じる。AIは、間違わないように最適化されている。その最適化の跡が、読み手には匂いとして届く。

読み手がなぜこれほど敏感になったのかも、考えておく価値がある。この数年で、私たちは同じ癖を持つ文章を、かつてない量で読まされた。メール、提案書、ウェブの記事、商品の説明文。どれも整っていて、どれも同じ場所で同じ形に崩れる。人間の脳は、繰り返し見た型を自動で検出する。AIの文章を見抜く力は、誰かに教わったものではなく、大量に浴びたことで勝手に育った免疫だ。だから、この匂いをごまかす小手先の技は、長くは効かない。読み手の免疫は、書き手の工夫より速く更新される。

実際に剥がしてみると、違いは一目で分かる。「導入にはメリットもデメリットもあり、自社の状況に応じた慎重な判断が求められると言えるでしょう」という一文を、「導入すべきだ。ただし、経理の照合からに限る」と書き直す。前者は誰も反対しないが、誰の記憶にも残らない。後者は反論を招くが、書き手が何を考えているかが伝わる。文章は、反論される覚悟をした分だけ、読まれる。

AIの側も、この癖を直そうと学習を重ねている。だが読み手の免疫は、書き手の改善より速く更新される。消えた癖の代わりに、新しい癖が見つかる。いたちごっこの中で変わらないのは、読み手が探しているのが、技術の痕跡ではなく、書き手の判断の痕跡だということだ。

匂いの正体は、「間違いたくない」だ

私はAIで下書きを作る。速いし、抜けがない。だが仕上げるときは、この五つの癖を、一つずつ剥がす。対句を一つに戻す。三つ並べたものを、一番効く一つに絞る。留保を言い切りに直す。段落の頭の言い直しを削る。そして結論を、自分の責任で、どちらかに傾ける。剥がし終えると、文章は少し粗くなる。だが、書き手がそこにいる感じが戻ってくる。粗さは欠点ではない。粗さの場所に、その人の判断が残っているからだ。

AI臭さとは、文章の出来の悪さではない。間違いたくない、という姿勢が、文章の形に染み出したものだ。だから消し方も単純で、どこかで間違うリスクを引き受けて、言い切ることに尽きる。次に自分の文章を読み返して、対句と三つ組と留保と言い直しと丸い結論が揃っていたら——それは、AIが書いたかどうかに関係なく、あなたがまだ何も賭けていない文章だ。

アイキャッチ画像はAI生成です。

次の成長に向けて、いま整えるべきことを。

AI、EC、マーケティング、採用、数値管理。
構想だけで終わらせず、実行できる体制へ。

まずは課題を整理してみるところから、スポルアップが実務目線で伴走します。

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この記事を書いた人

法務・財務・内部統制・情報セキュリティの実務を経て、AI時代の企業支援へ。バックオフィスの現場で見てきたことを、そのまま書いています。

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