そのランキングは、何で割った数字か

独立して、自分の看板で仕事をするようになってから、「起業が盛んな地域はどこか」というたぐいのランキングを、他人事でなく眺めるようになった。ニュースは、たいてい「東京がダントツ」と言う。数字を見れば、確かにそうだ。だが、その順位表を見るたびに、いつも小さな引っかかりが残る。東京が一位なのは、本当に東京で起業が「盛ん」だからなのか。それとも、別の何かを見ているだけなのか。今日は、その引っかかりの正体を確かめる。

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生の数では、東京が圧倒的だ

まず、素直な数字から見る。民間の調査によると、2024年に全国で新しく設立された法人は、15万社あまり。過去最多を更新した。そのうち、東京都だけで4万8千社近くを占める。これも全国最多で、過去最多だ。この生の数を並べれば、東京が一位、続いて大阪、神奈川——と、順位はほぼ、人口の多い順になぞられていく。「起業は大都市に集中している」で、話は終わりそうに見える。

だが、ここで立ち止まる。生の数のランキングは、たいてい「規模の大きい場所」を上位に運んでくる。人も会社も多い東京で、新しくできる会社も多いのは、当たり前のことだ。私が知りたいのは、そこではない。数の多さではなく、その土地でどれだけ活発に会社が生まれているか——密度のほうだ。それを見るには、生の数を、何かで割ってやる必要がある。

率で見ると、主役は沖縄に変わる

新しくできた法人の数を、その県にもともとある法人の数で割る。すると「新設法人率」という、密度をあらわす指標になる。この率で都道府県を並べ替えると、順位表の顔ぶれが、一変する。2024年のこの率で見た首位は、東京ではない。沖縄県だ。しかも一度きりの首位ではない。2010年から2024年まで、実に15年連続で全国トップを守り続けた。東京は二位、大阪、福岡と続く。生の数では上位にすら見えなかった沖縄が、密度で見ると、日本でいちばん会社が生まれている県だった。

新設法人率が高い都道府県 上位(2024年・%)沖縄県7.59(15年連続1位)東京都7.29大阪府6.22福岡県5.72出典:新設法人数÷普通法人数(国税庁統計年報より民間集計)。生の新設法人数は東京が全国最多だが、率では沖縄が首位。

種を明かせば、割り算をひとつ変えただけだ。分母を「何もなし(生の数)」から「もとの法人数」に変えた。ただそれだけで、主役が東京から沖縄へ移る。生の数のランキングで沖縄が上位に来なかったのは、沖縄で起業が低調だからではない。単に、県の規模が小さいからだ。規模の大きさが、活発さを覆い隠していた。

分母が、順位を決めている

下のほうも見ておく。新設法人率が最も低いのは福島県で、2.68%。山形、島根と続く。首位の沖縄7.59%とは、三倍近い開きがある。この差は、生の新設法人数のランキングを、どれだけ丁寧に眺めても、決して見えてこない。生の数は「規模」を、率は「密度」を測っている。どちらが正しいという話ではない。測っているものが、そもそも違う。「起業が盛んな県はどこか」を知りたいなら、見るべきは生の数ではなく、率のほうだ。

首位と最下位で、約3倍の開き(新設法人率・%)沖縄県(首位)7.59島根県2.81山形県2.76福島県(最下位)2.68出典:新設法人数÷普通法人数(国税庁統計年報より民間集計)。沖縄7.59%に対し福島2.68%。生数ランキングでは見えない差。

もう一段、注意を足しておく。生まれた数だけでは、まだ半分だ。会社がよく生まれる土地は、よく消える土地でもある。雇用保険をもとにした事業所ベースの開業率でも、沖縄は全国トップに立つ。そしてその沖縄は、廃業率でも上位に顔を出す。廃業率の上位にはほかに、山口や愛知といった、開業率の上位とは別の顔ぶれも並ぶ。生まれる勢いと、消えていく勢い。この二つを並べて初めて、その地域の新陳代謝が見えてくる。密度をあらわす一枚の率にも、まだ裏側がある。数字は、一段割るごとに、別の顔を見せる。

順位表を見たら、まず分母を探す

ここに、AIとデータの付き合い方のヒントがある。AIに「起業が盛んな都道府県は」と尋ねると、多くの場合、生の新設法人数のランキングが返ってくる。東京、大阪、神奈川——人口の多い順に、限りなく近い並びだ。「盛ん」を知りたかったのに、返ってくるのは「大きい」順。分母を何にするかを指定しなければ、ランキングは、ただ規模を映す鏡になる。これは起業に限らない。観光客の数も、犯罪の件数も、生のままでは、人口の多い場所が上位を占める。その順位を「活発だ」「危険だ」と読むのは、たいてい早とちりだ。

この違いは、机上の数字遊びでは終わらない。たとえば、国や自治体が起業支援に予算を配るとする。生の数だけを見れば、東京や大阪に厚く配るのが効率的だ、という話になりやすい。だが密度で見れば、いちばん起業の土壌が育っているのは沖縄だ。どちらの地図を手に取るかで、税金の向かう先が変わる。ランキングの分母は、そのまま、政策や投資が向かう先の分母になる。だからこそ、その一枚が何で割られているかは、眺めて済ませていい話ではない。

私は独立して以来、順位表を見ると、まず分母を探す癖がついた。人口あたりなのか、会社の数あたりなのか、それとも割っていない生の数なのか。分母がわかって初めて、その順位が何を語っているかがわかる。数字の集計や裏取りには、AIを使う。肯定して、日々頼っている。だが、どの分母で割るかだけは、機械に任せない。そこは、何を知りたいかを持っている人間が、決めることだ。

都道府県のランキングを見せられたら、一位に驚く前に、いちど探してほしい。この数字は、何で割ったものか、と。分母が変われば、主役は変わる。「起業が盛んな県は東京」——生の数では、確かにそうだ。だが、密度で見れば、2024年まで15年続けて日本の主役を務めていたのは、沖縄だった。順位表の本当の意味は、一位の名前ではなく、その下に隠れた分母のほうに、書いてある。

アイキャッチ画像はAI生成です。

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まずは課題を整理してみるところから、スポルアップが実務目線で伴走します。

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この記事を書いた人

法務・財務・内部統制・情報セキュリティの実務を経て、AI時代の企業支援へ。バックオフィスの現場で見てきたことを、そのまま書いています。

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