地図は、面積の広い県を大声にする

市場調査の報告書に、日本地図を入れるのが好きだった。都道府県を色で塗り分けると、それだけで「分かった」感じが出る。クライアントも喜ぶ。だが一度、痛い目に遭った。ある指標で北海道を濃い色に塗ったところ、会議室の全員が「北海道が大きい」と受け取った。指標の値が大きいのではなく、地図の上で北海道が大きく見えただけだった。値そのものは、中位だった。地図は、嘘はついていない。だが、面積の広い県を、大声で語らせていた。

都道府県のデータを地図にすると、見えるものと、見えなくなるものがある。今日は、この「見えなくなるもの」のほうを、三つに分けて書く。地図を作る人にも、地図を見せられる人にも、効く話だ。

目次

一つ目の歪み——面積は、人口と逆を向く

北海道の面積は約8万3千平方キロ、東京都は約2千2百平方キロで、およそ38倍の開きがある。ところが、人の数は逆だ。東京都のほうが圧倒的に多い。地図の上では、北海道は画面の大部分を占め、東京は目を凝らさないと見つからない。つまり、日本地図に色を塗ると、人の少ない広い県が強く見え、人の多い狭い都府県が弱く見える。人口や経済の話をするのに、いちばん人がいる場所が、いちばん小さく描かれる。

令和7年の人口移動で、東京都は65,219人の転入超過で全国最多、東京圏全体で112,738人だった。この事実を日本地図に塗ると、東京都の小さな一点だけが濃くなり、広い北の大地は薄いままだ。視覚の印象としては、「ほとんどの地域は変わっていない」に見える。数字が語っているのは「人の大半が、いちばん小さな場所に集まっている」なのに、地図は逆の印象を与える。面積と人口が逆を向いている以上、塗り分け地図は、人の話をするのに構造的に向いていない。

二つ目の歪み——階級の切り方で、地図は別物になる

色分け地図は、値をいくつかの階級に分けて、階級ごとに色を当てる。この階級をどこで切るかで、同じデータから、まるで違う地図ができる。高齢化率で言えば、秋田県の39.5%から東京都の22.7%まで、47の値が並んでいる。これを「30%以上を濃い色」と切れば、大半の道県が濃くなり、日本全体が老いた地図になる。「35%以上を濃い色」と切れば、濃いのは東北と四国の一部だけになり、問題は局地的に見える。どちらも正しい。どちらも同じデータだ。

階級を切るのは人間で、切り方に中立はない。だから地図を見せられたときは、色の濃淡より先に、凡例を見る。何%で色が変わっているか。その切れ目は、きりのいい数字か、それとも誰かの主張に都合のいい場所か。凡例を読まずに色だけ見るのは、目盛りを読まずにグラフを見るのと同じだ。

三つ目の歪み——色は、値より先に感情を運ぶ

赤は危険、青は安全、濃いは多い、薄いは少ない。色には、値を見る前に読み手に届く意味がある。高齢化率の高い県を赤く塗れば、そこは「問題のある場所」に見える。同じ県を落ち着いた緑で塗れば、「成熟した場所」に見える。データは一切変わっていない。変わったのは、読み手の感情だけだ。地図を作る側はこれを知っていて、意識的にも無意識にも、色で主張を運ぶ。

私が北海道で痛い目に遭ったあの地図も、いま思えば、濃い青を使っていた。濃い色は「多い」を運び、広い面積は「重要」を運び、二つが合わさって、中位の値が主役に見えた。値を伝えるつもりで、感情を伝えていた。

面積の歪みを正面から解く描き方もある。カルトグラムと呼ばれる、面積を人口や値の大きさに応じて描き直した地図だ。東京が大きく膨らみ、北海道が縮む。位置関係をある程度保ちながら、量を面積で伝える。見慣れない形に最初は戸惑うが、人の話をするときには、通常の地図より正直だ。どちらの地図を使うにせよ、その地図が面積で何を語っているかを、作る側が一度は意識しておく必要がある。

地図に頼らない見せ方を、一つ持っておく

では地図をやめるべきか。そうは思わない。地図には、位置関係と隣接を一目で伝える力があり、これは表やグラフには出せない。ただ、人口や経済のように「人の数」に比例する話をするときは、地図の隣に、面積の歪みを受けない見せ方を一つ添える。単純な横棒グラフでいい。47の値を大きい順に並べれば、北海道の面積は消え、東京の一点は一本の長い棒になる。地図で位置を見せ、棒で量を見せる。二つ並べると、読み手は地図の歪みを自分で補正できる。補正の手間を読み手に委ねない作り方こそ、地図を使う側の誠実さだ。

AIに都道府県データを渡せば、美しい塗り分け地図が一瞬で返ってくる。階級も色も、それらしく自動で決まる。だから余計に、凡例と切れ目と色の意味を、こちらが確かめる必要がある。地図を作るのが速くなった分、地図を疑う目は、人間の側で厚くしておいたほうがいい。次に色の塗られた日本地図を見せられたら、北海道の大きさに惑わされる前に、凡例の数字を一つだけ読んでみてほしい。地図の大声は、そこで少し静かになる。

アイキャッチ画像はAI生成です。

次の成長に向けて、いま整えるべきことを。

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構想だけで終わらせず、実行できる体制へ。

まずは課題を整理してみるところから、スポルアップが実務目線で伴走します。

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この記事を書いた人

法務・財務・内部統制・情報セキュリティの実務を経て、AI時代の企業支援へ。バックオフィスの現場で見てきたことを、そのまま書いています。

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