白状すると、私のカラオケの持ち歌は、もう長いこと更新されていない。仕事では新しい道具に真っ先に飛びつくたちで、音楽も新譜をストリーミングで浴びるように聴いている。それなのに、マイクを握ると出てくるのは、昔からの数曲だ。新しい曲は、聴けば口ずさめる。だが人前で歌えるかというと、話が別だ。この「聴ける」と「歌える」のあいだにある溝を、今日はランキングの数字で覗いてみる。
歌のランキングには、時間が積もっている
カラオケのJOYSOUNDが、その年に歌われた曲の年間ランキングを公表している。2025年の総合1位は、Mrs. GREEN APPLEの「ライラック」。前年に出た曲で、これは順当に聞こえる。だが3位に目を移すと、様子が変わる。「残酷な天使のテーゼ」。1995年、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」とともに世に出た曲だ。発表から30年。それが2025年に、日本で3番目に歌われた。4位の「サウダージ」も2000年の曲で、四半世紀前。TOP10を発表からの年数で並べ直すと、この積もり方が一目でわかる。
10曲の平均は、およそ10年前の曲。そして、この年——2025年に発表された曲は、TOP10にひとつも入っていない。いちばん新しい曲でも前年の2024年発表だ。カラオケの公式ランキング自身が、「その年に発売された曲」だけの部門を総合とは別に設けている。裏を返せば、新曲は放っておくと総合の上位に届かない、ということを、数える側がいちばんよく知っている。
聴くことと、歌うことは、別の行為だ
ストリーミングの再生ランキングなら、こうはならない。聴くほうのチャートは、新曲が出るたびに顔ぶれが入れ替わる。再生は、指一本でできる。アルゴリズムが流してくれた曲を、受け取ればいい。ところが、歌うためには、その曲が体に入っていなければならない。歌詞を覚え、メロディを覚え、サビの高さに喉を慣らす。人前で歌えるようになるまでには、時間と、繰り返しがかかる。しかも、カラオケには聴衆がいる。会社の懇親会で、初披露の新曲に挑んで外すのと、歌い慣れた一曲で確実に場を持たせるのと、どちらを選ぶか。マイクの前で、人は保守的になる。失敗の利く「聴く」と、失敗の見える「歌う」。この非対称が、二つのランキングの回転速度の差になって表れる。だからカラオケのランキングは、「今、流れている曲」ではなく、「人々がこれまでに身につけてきた曲」を映す。聴くチャートが世の中の「今」を数えているとすれば、歌うチャートは、世の中の「蓄積」を数えている。
30年前の曲が3位にいるのは、懐古趣味のせいだけではない。あの曲は、放課後のカラオケで上の世代が歌うのを聴いて、下の世代がまた覚える、という形で受け継がれてきた。曲そのものが、世代をまたぐ回路に乗っている。マイクを通して伝わる文化の在庫が、あのランキングには写っている。面白いのは、その回路の入り口だ。30年もののあの曲はアニメの主題歌で、1位の「ライラック」もまた、アニメとともに世に出た曲だ。新旧の顔ぶれを見比べると、物語と一緒に届いた歌は、体に残りやすい——そんな仮説さえ立てたくなる。歌は、単独で覚えるものではなく、思い出と抱き合わせで身につくものなのだ。
同じ「人気」でも、数えているものが違う
ここに、データの見方のヒントがある。「いま人気の曲は何か」とAIに尋ねると、たいてい再生数ベースの答えが返ってくる。再生数は取りやすく、更新が速く、量も膨大だからだ。だがその「人気」は、流れてきた回数の人気であって、人々が身につけた歌の人気ではない。もし、カラオケ店の選曲端末をつくるなら、見るべきは再生数ではなく歌唱数だ。世代を超えて歌い継がれる曲を探すなら、なおさらそうだ。同じ「人気」という言葉の下に、性質のまるで違う数字が同居している。どの数字を見るかは、何をしたいかが決める。これは音楽に限らない。商品の「人気」にも、閲覧された人気と、買われた人気と、繰り返し買われた人気がある。SNSの「反響」にも、流れてきた表示の数と、手を動かして書き込まれた声がある。取りやすい数字ほど、浅い行動を数えていることが多い。深い行動の数字は、取りにくいが、嘘が少ない。
私はこの記事の順位の整理も、発表年の裏取りも、AIにやらせている。肯定して、日々使っている。だが「人気の曲を教えて」と粗く聞けば、機械は取りやすい数字で答えてくる。聴かれた人気か、歌われた人気か。そこを指定するのは、いつも尋ねる側の仕事だ。
新しい曲を浴びるように聴きながら、歌うのは昔の数曲——私のカラオケは、そういえば、あのランキングの縮図だった。耳は、いつも最新を追いかける。だが喉は、時間をかけて覚えたものしか歌えない。三十年前の曲がまだ三位にいるのは、日本人が新しい音楽を聴いていないからではない。聴くことと歌うことが、最初から別の行為だからだ。次にマイクを回されたら、思い出してほしい。あなたがいま歌えるその曲こそ、再生数には決して写らない、あなたの中の一位なのだ。
アイキャッチ画像はAI生成です。
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