市場調査の仕事は、AIで半分になった。
これは体感ではなく、実感だ。かつて市場調査に携わっていた立場から言う。あの仕事の半分は、今やAIに任せられる。そして残りの半分は、相変わらず人間がやるしかない。今日はその「残りの半分」の話だ。
AIが得意な「半分」
市場調査の仕事には、大きく分けて二つのフェーズがある。情報を集めるフェーズと、集めた情報から意味を引き出すフェーズだ。
前者——情報収集——はAIが劇的に速くした。業界の概況、競合他社の動向、消費者トレンドの把握、公開情報の整理。以前なら数日かけてやっていたことが、数時間で粗削りながら形になる。検索して、読んで、まとめる、という作業の反復をAIは厭わない。人間は厭う。ここに圧倒的な差がある。
アンケートの設計補助も使える。「この仮説を検証するにはどういう設問が有効か」と問いかけると、それなりの叩き台を返してくれる。ゼロから考えるより、叩き台を修正する方が速い。これは間違いない。
AIが苦手な「残りの半分」
では何がAIには難しいか。
一言で言うと、「数字の外にある文脈を読むこと」だ。
市場調査で一番面白い瞬間は、データが予想と外れたときだ。「なぜこの層だけ反応が違うのか」「この数字の背景に何があるのか」——その問いに向き合う作業が、調査の本質だと私は思っている。
AIはデータを整理するのは得意だが、「なぜ外れたのか」を考えるのは苦手だ。AIは過去のパターンから答えを引っ張ってくる。でも市場の面白さは、過去のパターンが通用しない場面にある。新しい消費行動、想定外のニーズ、業界の常識を覆す動き——こういうものはAIには見えにくい。見えたとしても、その重要性を正しく評価できない。
もう一つ、現場の肌感覚がある。インタビュー調査や座談会で得られる「この人はなぜかこの言葉を避けた」「全員が同じ箇所で笑った」という観察は、テキストデータに変換された瞬間に失われる。AIはテキストを読む。でも空気は読めない。
「半分になった」の本当の意味
市場調査の仕事がAIで半分になった、と書いた。ただこれは、仕事量が半分になったという意味ではない。
時間のかかる作業が半分になった結果、残りの半分——考える仕事——に使える時間が増えた、ということだ。以前は情報収集に追われて、本当に考えるべきことを考える時間が足りなかった。AIはその構造を変えた。
これは市場調査に限らない。AIが得意な「処理」の部分を任せることで、人間が得意な「判断」と「解釈」に集中できる。そういう再配分が、あらゆる知的作業で起き始めている。
問題は、その「残りの半分」をちゃんとやれる人間がどれだけいるか、だ。処理を任せることで浮いた時間を、考えることに使えるか。それとも別の処理で埋めてしまうか。AIが突きつけているのは、ツールの問題ではなく、人間側の問題だと私は思っている。
数字を疑う習慣
最後にもう一点だけ書いておく。
AIが出してくる数字や情報は、それらしく見える。文体が整っていて、構成が綺麗で、自信満々に見える。だから疑いにくい。
でも市場調査の仕事で叩き込まれたことがある。数字は必ず出所を確認しろ、ということだ。どのデータが、いつ、どういう方法で集められたか。その条件次第で、同じ数字がまったく違う意味を持つ。
AIが出してくる情報も同じだ。それらしい数字が出てきたとき、その出所をAIに聞き返す習慣を持ってほしい。「その数字の根拠は何か」と。答えられなければ、その数字は使えない。答えられたとしても、自分で確認する。これは調査の基本であり、AI時代になっても変わらない基本だ。
次回は少し角度を変えて、経営と財務の話を書く。AIとは少し距離を置いた回になる。
株式会社スポルアップ CFO 加藤
AI・経営・数字まわりのことを、思ったことをそのまま書いています。

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